夢咲音楽館

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【短編小説】嘘松

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「ねえねえ、兄さん!」

 弟が何やら困ったような様子で私を呼んでいる。

「兄さん、ぼく悩みがあるんだ。聞いてくれないかい?」

 弟が私に悩みを相談してくるなんて珍しい、雨でも降りそうなくらいだ。とはいえおバカで呑気ものな弟のことだ。どうせくだらない話だろう。

「明日、体育祭なんだけどどうしても休みたくて…、学校をショベルカーで破壊するか、グラウンドに100匹の鹿を放つかで迷ってるんだ…。」

 ほうら、くだらない。

「おのれの運動音痴を晒してクラスの陽キャどもに嘲笑われるかと思うとぼくには耐えられそうにないんだ、お願いだよ。体育祭を休む方法を一緒に考えてよう。」

 まあ、気持ちはわからないでもないが、たかが1日休むだけで大げさすぎる。仮にグラウンドに100匹の鹿を放ったとして、事後処理の面倒くささは何も考えていないだろう。仮病でも使えばいいだろうに。

「仮病じゃだめだ!皆勤賞をとり逃すことだけはぼくのプライドが絶対に許さないんだ。」

 じゃあ、重機で学校を破壊しようとするな。体育祭の日どころか二度と学校に登校できなくなるぞ。

「じゃあ鹿か…」

 なぜそうなる。もっと冷静に考えてくれ、このままでは身内から犯罪者が出てしまう。そんなことになればご先祖様に顔向けできない。平和かつ手間のいらない方法を考えよう。

 

 …、そうだいい方法がある。これなら確実に休めるし前科もつかない。我ながらいい発想力だ。

「これならバッチリだね!ありがとう兄さん!」

 あと今さらだが、私のこと兄さんではなく姉さんと呼んでくれ。

 

 

そして体育祭当日

「なんだって!?…、まあそれならやむを得ないか…。仕方ない、特別欠席にしてやろう。」

 学校の先生の許可が下りた。弟は不安と緊張で縮んだバネが戻るかのような勢いで高く飛び跳ねた。

「やったあ、やったよ兄さん!!!」

 だから姉さんだ。

「本当にありがとう、おかげで陽キャどもの前で醜態を晒さずにすんだよ。この恩、いつかかならず返すよ!」

 そうか、喜んでもらえて何よりだ。ではその恩返し、今この場でしてもらおうじゃないか。

 そう、

 

 屋台の売り上げで

 

 体育祭が行われている学校の敷地外ギリギリに出店している屋台。それは体育祭の風物詩のひとつでもある。今回は屋台を出すはずだった叔父が倒れてしまい、かわりに自分たちが屋台を出し、家計を支えるために少しでも稼がなくてはならなくなった、という設定で教師を騙し、特別欠席を勝ち取ることに成功したのだ。

「ぼくがんばるよ!いっぱい鈴カステラを売って売り上げで恩返しするよ!」

 

 強く照らす日差し、熱く燃える生徒たち、汗水流して繋がれたバトン、しかしひと時の迷いによりプツンと切れた流れ。紅組は大きく失速し、後ろから疾風のような勢いで迫る白組に追い抜かれてしまった。怒涛のデッドヒート。

 これは白組の勝利だとその場にいる誰もが確信していた。ただひたすらに屋台で鈴カステラを売っていた姉弟を除いては。

 白組のアンカーが最終コーナーを抜けてゴールテープを切ろうとする、その瞬間だった。突然裏山から無数の鹿たちがグラウンドへ乱入、紅組の走者はその勢いで100メートルほど吹っ飛ばされ、白組が今まさに切ろうとしていたゴールテープへと激突した。

 予想外の展開に会場はどよめいた。勝利に歓喜する紅組、何が起こったのかいまだ理解できずに呆然とする白組、乱入してきた鹿の対処に追われる教員たち。

 そんな大混乱が起こっていることなど知る由もない姉弟は、畳んだ屋台と今日の売り上げを握りしめ、大満足で家に帰った。

 

「やったー!鈴カステラ全部売れたね!」

 すずの鈴カステラというキャッチコピーで販売した鈴カステラはもれなく完売。売り上げはなかなかな額になった。

「そういえば帰るとき、会場の方がちょっと騒がしかったよね。すごく盛り上がってたのかな。」

 鹿の乱入による大混乱のせいだった、なんてことを姉弟が知るのはその日の夕方のニュース番組だった。

 ついでに、どうやら鹿の乱入によりそのとき学校の改装工事をしていた作業員が動揺し、ショベルカーの操作を間違えて、学校を破壊してしまったらしい。わざわざ私たちが何もしなくともグラウンドに鹿が乱入し、学校が破壊される運命は変わらなかったようだ。

 

「…、そんなことよりうそ松さんでも見よっか…。」

 動揺する弟と2人でアニメを観る。アニメの世界は奇想天外で基本的になんでもありだ。アニメだけじゃない、それが創作というものだ。創作は非現実だからこそ美しい。

 しかし、この世には創作をあたかも現実であるかのように語る愚かな人間もいる。そのような者たちはインターネット上で『嘘松』と呼ばれている。この記事の奇想天外な物語。これを小説である、といえばこれは創作だ。だがこれは事実である、と言いTwitterや5ちゃんねるなどで語ればそれは嘘松なのだ。

 

 嘘は嘘であると見抜ける人でないと(インターネットを使うのは)難しい。
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